片道2時間強通学だった私は時間的、そしてもちろん経済的にも滝川で外食する余裕はなく、数えるほどしかありませんでした。
しかも一度登校したらそうそう帰れない距離。空き時間は時間をもてあまし、そうなると行きつく先は研究室でした。
そもそも私が研究室に入り浸るきっかけとなったのは『も○ぎ野』というお菓子の詰め合わせです。
まだ真面目に授業の質問のために訪れたその日、その研究室には大きなお菓子の詰め合わせがありました。それを目ざとく見つけた私は「食べていいですか?」と研究室の主にお伺いを立てました。「いいですよ」と快諾してくださったのですが、これがその先生の運のつきです。
以後その大きなお菓子詰め合わせを目当てかつ口実に研究室を訪問、いよいよそれがなくなれば自前でお菓子を持込みお茶まで入れてくつろぐ始末でした。
「研究室はくつろげる」と気づいたのは私ばかりではなく、二年生になる頃には多くの学生がいきつけの喫茶店ならぬいきつけの研究室を持つようになりました。
私のゼミの先生の研究室は常に学生がいて、出入りが多い分お茶受けもだれか彼かが持込み多種多様でした。
(写真の日は有名なHサブレがお茶受けだったようです)
そんな中でもM製菓の『D』というチョコレートは長い間その研究室の定番お茶受けに君臨しました。
今では知らない人はいないだろう有名チョコレートですが当時は新発売、しかも持ち込まれたのは冬季限定のホワイトチョコレートで大変美味!
研究室の大きな机の真ん中にちょこんと置かれた小さな箱の、その12粒を大の大人が一粒ずつ分け合って食べる姿はお金のない学生ならではの光景でした。
たかるばかりでなく、手作りしてもっていくこともありました。
秋にリンゴがたくさん手に入り、リンゴの焼き菓子を大量に作りました。
家族で消費するにも多く、ならば研究室にもっていけば誰か食べるだろうというおもてなしの気持ちの欠片もない持込みお茶受けでしたが、なんとこれを研究室の主であるゼミの先生に褒められたのです!
ゼミで褒められることなど皆無だった劣等生の私が意外なところで褒められ、「在学中とりあえず一回は先生におほめの言葉を頂けた。」と妙な達成感を覚えたものです。
と、まるでそこにあったお茶受けのパッケージまで覚えているかのように書いてますが、実際は味すらもうろ覚えです。(食コラムでそれもどうなんでしょう?)
それよりもやはりお茶受けの周りに集う人たちとの語らい、そこにあった笑顔を鮮明に覚えています。
当時の私はさもお茶受け目当てで来てるそぶりをしていましたが、本当は恩師や友人たちが集う研究室であたたまりたかった、という少し気恥ずかしい気持ちを「お茶受け」に隠してもらっていたのだと思います。
そのくらい國短の研究室は滝川の凍てつく雪景色とは対照的に学生にとってぬくもりのある場所でした。
なんとも暖かい研究室の空気感は卒業十数年たっても色あせることはなく、近所のスーパーで夕飯のメニューなど考えながら鬼の形相であわただしく買い物をしているときも、お菓子売り場で今なお現役で発売されている『も○ぎ野』『D』を見るとふと研究室での幸せな時間が蘇り、がちがちの気持ちが一瞬ほぐれたりします。
何年たっても研究室は私の第二のふるさとです。
たまには「帰って」ゆっくりしたいものです、もちろん大人なのでそれなりのお茶受けを持込んで。
2015.12.16 カテゴリー:
〈第3食〉研究室のお茶受け